本研究で明らかになったこと
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miRNA
Longitudinal study of circulating miR-122 in a rat model of non-alcoholic fatty liver disease.
血中microRNA(miR)-122が非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)のバイオマーカーとして期待されているが、NAFLD発症における血中miR-122レベルの経時的変化についてはほとんど分かっていない。そこで非アルコール性脂肪性肝疾患のラットモデルを使用し、血中miR-122の経時的変化を調べた。NAFLDを発症している状態での血中miR-122レベルの変化を明らかにするために、高脂肪食を与えた実験ラット(HFD)と標準的な食事を与えた対照ラットの血清、肝臓組織を収集し、血中脂質や肝機能に関連するパラメーターを測定した。10週間の給餌で、HFD群では、対照群と比較して、体重、総肝臓脂質、肝臓および血清中性脂肪が増加したが、血清アラニンアミノトランスフェラーゼ活性に有意な変化は観察されなかった。これは、NAFLDの状態が軽度であることを示唆している。対照的に、循環miR-122レベルは明らかな上昇を認めた。これらの結果は、血清miR-122レベルが初期のNAFLDの評価に有用であり、肝疾患のモニタリングマーカーとして、これまで使用されている臨床マーカーよりも優れている可能性があることを示唆している。
Yamada, H., Ohashi, K., Suzuki, K., Munetsuna, E., Ando, Y., Yamazaki, M., … & Hashimoto, S. (2015). Clinica Chimica Acta, 446, 267-271.
Association of cigarette smoking with serum microRNA expression among middle-aged Japanese adults.
近年、血清microRNA(miRNA)は様々な生活習慣と関連することが示唆されている。日本人集団における喫煙習慣と血清miRNAとの関連を明らかにすることを目的として、住民健診主審者を対象として横断調査を実施した。2012年8月に北海道八雲町の診療所で住民健診を受診した39歳以上の参加者526名について、qRT-PCR法を用いて、いくつかの血清miRNAを測定し、喫煙習慣別に血清miRNA高値のオッズ比を算出した。その結果、多くの血清miRNAの発現は喫煙者で非喫煙者より有意に高く、多重ロジスティック回帰分析の結果においても、喫煙者は非喫煙者、禁煙者と比較して血清miRNA高値のオッズ比が高かった。喫煙はさまざまな血清miRNAの発現上昇と関連していることが明らかになり、病的状態を診断するために血清miRNAの発現を評価する際に、喫煙によって引き起こされる交絡効果を考慮する必要があることが示唆された。
Suzuki, K., Yamada, H., Nagura, A., Ohashi, K., Ishikawa, H., Yamazaki, M., … & Inoue, T. (2016). Fujita medical journal, 2(1), 1-5.
Stability of serum high-density lipoprotein-microRNAs for preanalytical conditions.
我々は高比重リポタンパク(HDL)中に存在するmicroRNAのさまざまな保存条件での安定性を調査するために、血清から精製されたHDLからマイクロRNAを抽出した。さらに、qRT-PCRによってHDLに存在することが知られているmiR-135aおよびmiR-223を定量し、HDL-miRNAの分析に対する保存条件および凍結融解などの影響について調査した。その結果、HDL中のmiRNA濃度は、RNase処理(0〜100 U / mL)によって変化しなかった。血清を室温または4℃で0〜24時間保存した後、これらのmiRNAに有意な変化は観察されず、最大2週間の凍結保存でも同様の結果が得られた。また、HDL-miRNAは、少なくとも最大5回の凍結融解を繰り返して測定しても安定していた。これらの結果から、HDL-miRNAは様々な保存条件に対して比較的安定であることが示唆された。
Ishikawa, H., Yamada, H., Taromaru, N., Kondo, K., Nagura, A., Yamazaki, M., … & Teradaira, R. (2017). Annals of clinical biochemistry, 54(1), 134-142.
Establishment of a simpler method for measuring HDL-microRNAs.
HDL-microRNA(miRNA)の臨床応用を目指し、HDL-miRNAを定量測定するために、より簡便な分析方法を確立することを目指した。方法は、超遠心分離、リンタングステン酸/ MgCl2沈殿、脱塩/バッファー交換からなる3段階のプロトコルを使用して、プール血漿からHDL断片を精製した後、定量的リアルタイムPCRによってHDL-miRNAを定量化した。10人のボランティアのHDL-miRNAを用いて評価を行った。その結果、精製されたHDL分画ではエクソソームとLDLは検出されなかった。さらに、本法はHDLのみが精製され、HDL回収率が少なくとも約50%であることを確認した。以上のことから、HDL-miRNAを定量するための簡便な方法を確立し、従来の方法と比較してサンプル処理能力を向上させることができるようになった。
Ishikawa, H., Yamada, H., Kondo, K., Ota, T., Yamazaki, M., Ando, Y., … & Ohashi, K. (2018). Annals of clinical biochemistry, 56(1), 49-55.
Association of subcutaneous and visceral fat with circulating microRNAs in a middle-aged Japanese population.
microRNA(miRNA)が肥満に及ぼす影響を報告した研究はいくつかあるが、血中miRNAと肥満との関係を調査したものはほとんどない。そこで、本研究では日本人集団における血清miRNAと肥満指標との関連について横断的に調査をおこなった。北海道八雲町の住民健診受診者526名を対象として、皮下脂肪や内臓脂肪組織などの肥満指標を測定した。さらに、血液を採取し、血清中の脂肪細胞の増殖と分化に関与する5つのmiRNA(miR-20a、-21、-27a、-103a、および-320)を、qRT-PCR法を使用して測定した。血清miR-21、-27aおよび-103aは皮下脂肪と有意な関連を認めた。また血清miR-27a、-103aおよび-320は内臓脂肪と有意な関連を認めた。BMIは、血清miR-20a、-27aおよび-103aと有意な正の関連を認めた。本調査結果は肥満のメカニズム解明への有益な情報となるとともに、これらのmiRNAが肥満関連疾病の発症や進展と関連している可能性を示唆するものである。
Munetsuna, E., Yamada, H., Ando, Y., Yamazaki, M., Tsuboi, Y., Kondo, M., … & Suzuki, K. (2018). Annals of clinical biochemistry, 55(4), 437-445.
Circulating microRNAs (miR-126, miR-197, and miR-223) are associated with chronic kidney disease among elderly survivors of the Great East Japan Earthquake.
最近の研究で慢性腎臓病(CKD)の発生率は避難者の方が高いと報告されているが、その分子メカニズムは明らかではない。一つの仮説として心理的苦痛による血管機能の変化が示唆されている。そこで、血清中の心血管疾患(CVD)と関連するmicroRNA(miRNA)が震災後の高齢者の慢性腎臓病と関連しているかを調べるため、東日本大震災後の健康診断に参加した1385名のデータを分析した。健康診断では、ライフスタイル、病歴、住宅損傷程度等の情報も質問票を用いて収集した。血清miRNAはqRT-PCR法を用いて測定した。推定糸球体濾過率(eGFR)は、性別、年齢、および血清クレアチニンを用いて算出した。CKDはeGFR <60 ml / min /1.73m2と定義した。血清miRNAとCKDとの関連は多変量回帰分析を用いた。CKDを有する者では、これらの血清miRNAは腎機能正常者よりも有意に低かった。交絡因子を調整後も血清miRNAと慢性腎臓病の関連性を認めた。以上のことから、血清CVD関連miRNAの相違が、自然災害後の腎機能低下に寄与する可能性が示唆された。
Fujii, R., Yamada, H., Yamazaki, M., Munetsuna, E., Ando, Y., Ohashi, K., … & Suzuki, K. (2019). BMC nephrology, 20(1), 1-7.
Associations between dietary vitamin intake, ABCA1 gene promoter DNA methylation, and lipid profiles in a Japanese population.
ATP-binding cassette protein A1(ABCA1)はHDLコレステロールを生成するのに重要な役割を果たしている。ABCA1遺伝子のDNAメチル化により血中HDLコレステロール値が低下することで、循環器疾患の発症と関連することが報告されている。しかしABCA1遺伝子のDNAメチル化の変化要因は明らかではない。そこで、ABCA1 遺伝子のDNAメチル化を変化させる生活習慣として、食事中のビタミン摂取に着目した。これらの摂取量とABCA1 遺伝子のDNAメチル化率との関連、さらにそれを介したHDLコレステロール値との関連を脂質異常症の人を除外した225人(男108人、女117人)を解析対象として解析した。白血球ABCA1 遺伝子のDNAメチル化レベルはパイロシーケンス法を用いて測定した。食事中のビタミン摂取量はFFQを用いて推定し、残差法によってエネルギー調整した値を算出した。解析の結果、ビタミンCの摂取量が多い人は白血球ABCA1 遺伝子のDNAメチル化低値を介して、血清HDLコレステロール値が高いということが明らかとなった。今回の研究成果は、ビタミンCの循環器疾患に対する予防的な効果をABCA1遺伝子のDNAメチル化が媒介している可能性を示唆するものであり、一般的な日本人集団においての循環器疾患予防について新たな分子メカニズムとなり得ると考える。
Fujii, R., Yamada, H., Munetsuna, E., Yamazaki, M., Ando, Y., Mizuno, G., … & Suzuki, K. (2019). The American journal of clinical nutrition, 110(5), 1213-1219.