本研究で明らかになったこと
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脳血管疾患・心疾患
Comparison of the incidence of acute decompensated heart failure before and after the major tsunami in Northeast Japan.
津波に襲われた岩手県東海岸における急性非代償性心不全(ADHF)の入院患者の数と臨床的特徴を災害前後の12週間にわたって調査した。結果は、災害後津波地域のADHF患者数は災害前と比較して大幅に増加し、ピークは災害3~4週間後であった。一方、対照として同時に調査した津波の影響が小さい地域では、有意な変化はなかった。また、ADHF入院数の変化と津波洪水面積の割合又は避難者数の間に有意な相関があった。結論として、日常生活の突然の大きな変化と壊滅的な津波に関連するトラウマがADHFの発生率に重大な影響を及ぼしていることが示唆された。
Nakamura, M., Tanaka, F., Nakajima, S., Honma, M., Sakai, T., Kawakami, M., … & Makita, S. (2012). The American journal of cardiology, 110(12), 1856-1860.
Incidence rate of cerebrovascular diseases in northern Japan determined from the Iwate Stroke Registry with an inventory survey system.
本研究は、日本で脳卒中死亡率が最も高い地域における脳卒中登録のための全数調査システムと脳血管疾患の罹患率を示す。岩手県北部において2004年から2008年の全数調査で得られた脳卒中登録のデータを使用して、年齢別の年間罹患率、年齢調整された年間罹患率、および脳血管疾患の死亡数に対する罹患数の比率を調査した。本研究では、合計3,415例(男性1,714例と女性1,701例)が登録され分析された。確度の高い全数調査と、そこから得られた脳卒中登録データにより、岩手県北部の脳血管疾患発生率の高さが明らかになった。
Omama, S., Yoshida, Y., Ogasawara, K., Ogawa, A., Ishibashi, Y., Ohsawa, M., … & Okayama, A. (2013). Journal of Stroke and Cerebrovascular Diseases, 22(8), e317-e322.
Influence of the great East Japan earthquake and tsunami 2011 on occurrence of cerebrovascular diseases in Iwate, Japan.
津波被害が脳血管障害の発生に及ぼす影響を明らかにする。岩手県沿岸部、内陸部での脳血管障害の発症について、過去3年間に対する2011年の災害前後における標準化罹患比を求めた。その結果、被災後4週間において男性、後期高齢者、津波洪水被害が大きい地域では脳血管障害の罹患率が高く、そのすべてに該当する者では脳梗塞の罹患が2倍以上であることが明らかになった。
Omama, S., Yoshida, Y., Ogasawara, K., Ogawa, A., Ishibashi, Y., Nakamura, M., … & Sakata, K. (2013). Stroke, 44(6), 1518-1524.
Extent of flood damage increased cerebrovascular disease incidences in Iwate prefecture after the great East Japan earthquake and tsunami of 2011.
東日本大震災と津波の後、脳血管障害の罹患率の増加が観察されたが、津波被害と地震のどちらが脳血管障害の罹患率の増加の原因であるかどうかを評価するために、脳血管障害に対する地震のマグニチュードと洪水被害の相対的な影響を評価した。洪水浸水地域を被害の大きさによって4グループ、地震強度によって3グループに分け、標準化罹患比とそのオッズ比を算出した。その結果、標準化罹患比は洪水の深刻度の増加とともに増加しており、震度の増加に伴って増加はしていなかった。したがって、2011年の東日本大震災後の脳血管障害の発生は、地震の規模ではなく津波による被害のために増加していた。
Omama, S., Yoshida, Y., Ogasawara, K., Ogawa, A., Ishibashi, Y., Nakamura, M., … & Sakata, K. (2014). Cerebrovascular Diseases, 37(6), 451-459.
Sustained increase in the incidence of acute decompensated heart failure after the 2011 Japan earthquake and Tsunami.
2011年の日本の地震と津波が被災地の急性非代償性心不全(ADHF)の発生率に及ぼす長期的な影響を調査した。調査地域内の病院の包括的登録を使用した集団調査で、災害年と災害後(2012年~2014年)のADHFの新規発症について、震災以前に対する標準化発生率と95%信頼区間を、津波の被害の大きい地域と小さい地域でそれぞれ算出した。その結果、2011年に標準化発生率は津波被害の大きい地域で有意な増加を示し、2012年には有意差はみられなかったが、2013、2014年に再び増加していた。また、津波洪水の被害規模や避難人口の割合と標準化発生率は有意に関連していた。一方で、地震の震度との関連は見られなかった。これらの結果は、地震自体ではなく壊滅的な津波が、被災地に住む住民の間でADHFの発生率の長期的な増加をもたらしたことを示唆している。
Nakamura, M., Tanaka, F., Komi, R., Tanaka, K., Onodera, M., Kawakami, M., … & Komatsu, T. (2016). The American journal of cardiology, 118(9), 1374-1379.
Development and validation of a score for evaluating comprehensive stroke care capabilities: J-ASPECT study.
Brain Attack Coalitionは、脳卒中および脳血管障害の患者のための包括的なケアのセンターを設立することを推奨したが、そのセンターのためのスコアリングシステムがなかった。そのため、日本の状況に適応した包括的なストロークセンター(CSC)スコアを作成して検証した。国内で選ばれた1,369の認定トレーニング機関のうち、749の機関が急性脳卒中ケア能力調査を完了した。病院のパフォーマンスは、5つのサブカテゴリをもつ25項目のスコアを使用して評価され、スコアについては、相関係数と因子分析によって一貫性と妥当性を評価した。結果は、CSCスコアは、病院の規模によって異なり、5つのサブカテゴリは中程度の一貫性を示した。因子分析により、神経血管手術と介入、血管神経学、診断的神経放射線学、神経臨界治療とリハビリテーションの4つの構造が特定され、それらは虚血性脳卒中、脳内出血、くも膜下出血による院内死亡率に影響していた。以上より、CSCスコアは、神経血管手術と介入、血管神経学、診断的神経放射線学および救命救急とリハビリテーションサービスの可用性に基づいてCSC機能を評価するための有効な尺度である。
Kada, A., Nishimura, K., Nakagawara, J., Ogasawara, K., Ono, J., Shiokawa, Y., … & Iihara, K. (2017). BMC neurology, 17(1), 1-11.
The impact and effectivity of an inventory survey for a stroke registry in Iwate prefecture.
岩手県の脳卒中登録プログラムの精度は、医療機関や現場の医師の協力によって大きく影響を受けており、非中核病院からの登録症例数は少なかったが、登録の正確さは不明であった。本研究は、脳卒中登録の全数調査の影響と有効性を示す。2012年から2014年の間に脳血管発作を発症した岩手県の沿岸および北部地域在住患者の詳細を、全数調査による岩手脳卒中登録から得て、中核病院と非中核病院の年間罹患率を比較した。また、非中核病院から登録された要因を評価するために、性別、年齢、居住地域、脳卒中の種類、および脳血管疾患の過去の病歴について多変量解析を実施した。結果は、10万人当たりの年間粗罹患率は、中核病院の男性で428.8、女性で351.2、非中核病院の男性で38.5、女性で43.7であった。多変量解析では、年齢、虚血性脳卒中、脳血管疾患の過去の病歴、および中核病院のない地域は有意であったが、性別は有意ではなかった。以上より、岩手県の脳卒中登録プログラムの全数調査は、高齢、虚血性脳卒中発症、脳卒中の既往歴、または中核病院のない地域に住む患者を含む、非中核病院からのデータ欠損を防ぐのに有用であった。
Omama, S., Ogasawara, K., Ishibashi, Y., Nakamura, M., Tanno, K., & Sakata, K. (2017). Journal of Stroke and Cerebrovascular Diseases, 26(10), 2160-2166.
Long-term effects of the 2011 Japan earthquake and tsunami on incidence of fatal and nonfatal myocardial infarction.
本研究は、2011年の日本の地震と津波が致命的および非致命的な心筋梗塞(MI)の発生率に及ぼす長期的な影響を調べることを目的としている。調査地域を津波被害の重大度に基づいて2つのゾーンに分割した。災害年と災害年後において、両タイプ(致命的/非致命的)の心臓イベントの標準化発生率と95%CIをゾーン別に算出した。災害後の4年間、非致命的MIの標準化発生率は、どちらのゾーンでも統計的に有意な程度に変化しなかった。一方、致命的なMIの場合、津波被害の小さいゾーンでは安定していたが、被害が大きいゾーンでは、2011年の災害年に標準化発生率が大幅に上昇し、その上昇はその後3年間持続した。また、災害後4年間の致命的なMIの標準化発生率は、浸水地域の割合と津波による死亡者数と有意に相関していたが、最大震度とは相関していなかった。これらの結果は、壊滅的な津波が被災者の致命的なMIの発生率の継続的な増加と関連していたことを示唆している。
Nakamura, M., Tanaka, K., Tanaka, F., Matsuura, Y., Komi, R., Niiyama, M., … & Northern Iwate Heart Registry Consortium. (2017). The American journal of cardiology, 120(3), 352-358.
脳卒中罹患および脳卒中死亡の岩手県内の地域差について.
岩手県内の脳卒中罹患と脳卒中死亡の地域差を明らかにする。岩手県全域で悉皆調査が行われた2008年から2016年までの岩手県地域脳卒中発症登録データを用いて、初回発症について岩手県内33市町村の標準化罹患比を算出し、各市町村の標準化死亡比とあわせて検討した。結果は、岩手県の脳卒中標準化死亡率および脳卒中罹患率に大きな地域差を認めた。
大間々真一, 小笠原邦昭, 石橋靖宏, 大澤正樹, 丹野公高, & 坂田清美. (2020). 岩手公衆衛生学会誌, 31(2), 1-4.
Occurrence of Cerebrovascular Diseases Decreased after the Great East Japan Earthquake and Tsunami of 2011.
2011年の東日本大震災と津波後の脳血管疾患(CVD)の発生の一時的な増加が報告されたが、長期的な影響を調査するための研究は行われていない。そこで、災害がCVDの発生率に及ぼす長期的な影響を評価した。方法は、2008年から2017年までのCVDの発生率データを、日本の岩手県の全数調査による脳卒中登録システムから取得した。年齢調整罹患率(日本の標準人口による)を、津波被害の大きい地域と小さい地域別に計算した。また、災害年前(2008年から2010年)に基づいて、年齢調整罹患率の相対リスク(RR)を、災害の年(2011年)と災害年後(2012年から2017年)について各地域で計算した。結果は、災害が発生した年に海岸に住んでいた男性の一時的な増加を除いて、年齢調整罹患率はすべての地域で徐々に減少していた。結論として、東日本大震災と津波の年には、津波被害があった沿岸地域でのCVDの発生は増加せず、さらに、その後の数年間の洪水被害の深刻さに応じて、男性は減少していた。これは、津波被害者への支援活動と人口移動に起因する可能性がある。
Omama, S., Komoribayashi, N., Inoue, Y., Mase, T., Ogasawara, K., Ishibashi, Y., … & Sakata, K. (2020). Cerebrovascular diseases extra, 10(3), 105-115.