本研究で明らかになったこと
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精神保健
自殺対策とうつ病治療.
自殺企図の背景にある精神障害として、うつ病などの気分障害やストレス関連障害が存在する。希死念慮の出現を防止するためにはストレスコーピングが必要であり、特に患者の抱える具体的問題が解決の課題となることから、精神保健福祉士、医療ソーシャルワーカーによるケースマネージメントとソーシャルワークが、患者が社会資源を活用しながら問題解決に至るための支援として効果的と考えられる。自殺企図者への対応にあたっては、身体科医と精神科医が連携とりながら、身体・精神科的な治療を並行して行えるような体制作りが求められる。現在、精神科医向け、救急医向けに自殺未遂者対応のためのガイドラインが作成され、各地で研修会が開催されるなど、自殺未遂者ケアの推進体制が構築されている。患者が精神科を受診するまでには、受診への抵抗感、敷居の高さがあり、受診経路も限られているため、受診経路の整備や支援のネットワーク構築が必要である。そのためにはゲートキーパー向けプログラムによる介入が効果的であり、ケアナースやネットワークナースなどの果たす役割が重要である。
大塚耕太郎, 酒井明夫, & 岩戸清香. (2011). Medical practice, 28(10), 1807-1812.
自殺企図患者へのアプローチ:家族・遺族へのかかわり編.
自殺企図患者の家族・自殺者遺族は動揺していることが多い。患者が亡くなった場合、遺族は悲痛な心理社会的体験を経験する。遺族の抱える問題が解決されなかったり、周囲のスティグマ(偏見)による二次的被害を受けるなどにより、時にうつ病やPTSDを伴う複雑性悲嘆を呈する場合も少なくない。また、生活上の問題や経済的問題、家族の葛藤など、様々な困難を抱える。そのため、救急医療スタッフは遺族の苦痛に配慮した態度で接することが求められ、今後の問題に役立つような遺族支援に関するリーフレットを渡したり、関係機関と連携し支援を提供することが重要である。本稿では、家族や遺族への対応に関して、家族が来院を拒んでいる場合、来院した家族がひどくショックを受けている場合などの接し方、心理的ケアの方法、情報提供などについてQ&A方式で説明している。
大塚耕太郎, 酒井明夫, 小泉範高, 肥田篤彦, 赤平美津子, & 吉田美穂子. (2011). Emergency Care, 24(11), 1077-1082.
Mental health and related factors after the Great East Japan earthquake and tsunami.
震災後の精神健康問題の有所見率と関連要因を明らかにするため、2011年9月から2012年2月にかけて、岩手県の3つの市町村の被災者に調査票を送付し、震災6ヶ月後の健診時に持参してもらった。精神健康の問題を測定するためにはK6を使用した。研究参加者10,025名のうち、42.6%が中等度または重度の精神的な問題を抱えていた。多変量解析の結果、女性が精神健康の問題と有意に関連しており、精神健康の問題に関連する他の変数は、若い男性、健康上の不満、深刻な経済状況、移転、社会的ネットワークの欠如であった。精神健康の問題に対する性別と経済状態の相互作用効果は有意であった。男女ともに健康上の不満、深刻な経済状況、移転、社会的ネットワークの欠如は精神健康低下の重要な危険因子の可能性があった。特に男性は経済的支援にフォーカスした支援が有効な可能性がある。
Yokoyama, Y., Otsuka, K., Kawakami, N., Kobayashi, S., Ogawa, A., Tannno, K., … & Sakata, K. (2014). PloS one, 9(7), e102497.
Relationship between the suicide standardized mortality ratio and local community indices before and after the Great East Japan Earthquake in Iwate prefecture: 岩手県における東日本大震災前後の自殺標準化死亡比の変化と社会生活指標との関連 (Doctoral dissertation, Iwate Medical University/岩手医科大学).
本研究の目的は、2011年3月11日に発生した東日本大震災前後の標準化死亡比SMRと地域コミュニティ指数との関係を明らかにすることである。2008年から2013年までの6年間を震災前後の2つの期間に分け、9つの医療保健分野について自殺SMRを計算し、それと日常生活、経済状況、医療、災害による被害に関する指標との相関係数を算出した。さらに、SMRを従属変数、地域コミュニティ指数を独立変数とした多変量解析を行った。その結果、岩手県の自殺は、震災前の医師数の少なさ、仮設住宅の総数、災害復旧予算の少なさに関係していることが明らかになった。これらの社会的要因が自殺の危険要因であると理解され、対策により震災後の自殺は抑えられていることが推察される一方で、被災地への支援やメンタルヘルス対策を長期に継続する必要があることも示唆された。
志賀優. (2016). JIMA, 68(3), 207-222.
東日本大震災による被害状況が被災 2 年後の精神健康に与える影響の検討: 岩手県沿岸部住民を対象とした追跡調査から.
東日本大震災による家屋被害,同居者の死亡・行方不明,失業の状況と被災2 年後の被災者の精神健康の状態の関連性を明らかにする。岩手県大槌町、陸前高田市、山田町、釜石市下平田地区において健康診断および質問紙調査を実施し、2011年度と2013年度の調査の両方に回答が得られた6,699名の健康診断及び質問紙調査の結果を男女別に分析した。結果は、K6により測定した震災2年後の精神健康は、男性では震災による家族被害や同居者の死亡・行方不明、失業は震災2年後の精神健康とは関連が認められなかったが、現在の社会経済的状況との関連が認められた。一方、女性では震災による家屋被害や同居者の死亡・行方不明と震災2年後の精神健康との関連が認められた。
米倉佑貴, 丹野高三, 佐々木亮平, 高橋宗康, 坂田清美, 横山由香里, … & 小林誠一郎. (2017). 厚生の指標, 64(1), 24-29.
Cumulative incidence of suicidal ideation and associated factors among adults living in temporary housing during the three years after the Great East Japan Earthquake.
東日本大震災後3年間の自殺念慮の累積発生率を、以前は自殺念慮のなかった仮設住宅居住者と一般人口で遡及的に把握して比較すること、さらに自殺念慮の発症の危険因子を特定することを目的とした。被災地と対照地域の成人住民に災害3年後に個別面接を含む調査を実施した。結果は、被災地の回答者1,019人のうち、震災後1年、2年、3年の自殺念慮の累積発生率は対照地域よりも有意に高かった。また、結婚していない、災害で負傷している、主観的な身体的健康状態が悪いことは、自殺念慮の発症と関連していた。
Xu, Q., Fukasawa, M., Kawakami, N., Baba, T., Sakata, K., Suzuki, R., … & Bromet, E. J. (2018). Journal of affective disorders, 232, 1-8.
Onset and remission of common mental disorders among adults living in temporary housing for three years after the triple disaster in Northeast Japan: comparisons with the general population.
東日本大震災後の3年間、仮設住宅に住む成人の、一般的な精神障害の災害後の新規発症と寛解を調査した。災害から3年後、被災地の仮設住宅に住む1,089人の成人居住者(仮設住宅グループ)と、東日本の非被災地からの852人の地域住民のランダムサンプルに対して対面インタビューを実施した。面接では、DSM-Ⅳの気分障害、不安障害、アルコール使用を診断するために世界保健機関複合国際診断面接を行い、人口統計学的変数と災害経験に関する情報も収集した。気分障害、不安障害の発症は、仮設住宅グループで最初の1年は多くみられたが、その後の増加は緩やかだった。災害後の精神障害の発生からの寛解は、地域住民よりも仮設住宅グループで遅かった。
Kawakami, N., Fukasawa, M., Sakata, K., Suzuki, R., Tomita, H., Nemoto, H., … & Bromet, E. J. (2020). BMC public health, 20(1), 1-11.