本研究で明らかになったこと
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口腔保健
「東日本大震災被災者の健康状態などに関する調査」 における歯科健康調査.
本稿では、平成24年12月に行われた被災者の歯科健康調査の課題やその方策、調査の実際の様子について報告している。準備段階の課題として、現地への移動手段の確保、会場と人員の確保、宿泊施設や調査項目の設定、機材の準備があり、それぞれの課題に対していかに対応したかの方策を報告している。また、実際の調査については、開始前の打ち合わせから会場設営の様子、参加者が来場した後の流れなどについて紹介している。調査の結果は、調査対象者総数は2,008名であり、口腔検査結果(現在歯状況、歯周組織の状況、動揺歯保有状況、口腔粘膜疾患、)、アンケート調査結果から地域特性や被災による口腔への影響を把握し、受診者へのフィードバックを行っている。
岸光男. (2012). 岩手医科大学歯学雑誌, 37(Supplement), 63-70.
Factors Related to Oral Health Status of Disaster Victims 9 Months after Great East Japan Earthquake.
東日本大震災から9か月後、大槌町住民2,001名に対してアンケートと口腔診査による口腔保健調査を行った。その結果、同年に行われた国の保健統計調査である歯科疾患実態調査と比較して、調査対象集団において未処置歯、歯周ポケットを有する者の割合が高く、また震災前に歯科受診していた357名のうち、35.6%の者で治療が中断されたままであった。歯科治療が中断されたままだった者および可撤性床義歯が紛失もしくは破損した者において、震災後に食事や会話に問題を感じた者も多く、かつ調査時点での口腔の主観的健康状態も不良であった。結論として、震災から9か月経過した時点においても被災地住民は歯科保健医療を必要としており、被害の大きい被災地域では震災直後だけでなく継続的に歯科保健医療の提供が必要である。
KISHI, M., AIZAWA, F., MATSUI, M., SUZUKI, R., MIURA, H., YOKOYAMA, Y., … & OGAWA, A. (2014). 日本保健医療行動科学会雑誌, 29(1), 12-22.
Oral health-related quality of life and related factors among residents in a disaster area of the Great East Japan Earthquake and giant tsunami.
東日本大震災と津波の被災者における口腔衛生関連の生活の質(OHRQoL)と関連要因の災害後の分布を明らかにするため、大槌町の18歳以上の住民に一般口腔衛生評価指数とK6を評価する質問紙調査を行い、1,987人が回答した。また、現在の歯の数、虫歯の状態、歯の動揺度を判断し、歯周の健康状態を評価するために口腔検査を実施した。その結果、一般口腔衛生評価指数は50~69歳のグループで有意に低く、性別、年齢、避難状況、歯科治療中断等の今回評価された全ての要因がOHRQoLと有意に関連していた。また、災害前に歯科治療を受け、義歯を紛失または損傷し、臨床的な口腔衛生上の問題を抱えた中高年の参加者は、OHRQoLが低い傾向があった。被災者のOHRQoLは、臨床的な口腔状態や全身の健康状態などの平時のOHRQoLに関連する要因に加えて、災害に起因する口腔の問題と関連していた。さらに、深刻な精神的ストレスはOHRQoLと関連しており、これは災害が口腔と精神の両方の健康状態に大きな悪影響を及ぼしていることを示唆している。
Kishi, M., Aizawa, F., Matsui, M., Yokoyama, Y., Abe, A., Minami, K., … & Ogawa, A. (2015). Health and quality of life outcomes, 13(1), 1-11.
Prevalence of Candida albicans and non-albicans on the tongue dorsa of elderly people living in a post-disaster area: a cross-sectional survey.
高齢者が急増している被災地において、Candida albicansおよびnon-albicansの検出結果と、口腔および全身の状態、ライフスタイル、投薬、生活状態の関係を調べた。調査は2014年岩手県大槌町の60歳以上の住民266人に対し、口腔標本を綿棒で舌背から採取し、健康診断と質問票調査を行った。結果は、C. albicansとnon-albicansはそれぞれ142人(53.4%)と63人(23.7%)で検出された。コロニー形成に関連する要因は、C. albicansでは齲歯があることと転居経験が、non-albicansは80歳以上であること、残存歯数、義歯使用、肥満であった。さらに、口腔の状態以外に、全身および生活状態が、災害後の地域に住む高齢者のC. albicansとnon-albicansの両方の有所見率に影響を及ぼしていた。
Sato, T., Kishi, M., Suda, M., Sakata, K., Shimoda, H., Miura, H., … & Kobayashi, S. (2017). BMC Oral Health, 17(1), 1-10.
Community Periodontal Index ‹CPI›の2013年改訂法と従来法による同一集団に対する評価結果の差違.
CPI(Community Periodontal Index=地域の歯周疾患の状態を示す指標) を用いた口腔保健調査において、従来のCPI(従来法)による歯周組織の評価に加え、全被検分画の歯肉出血を記録することで改訂法による評価も行い、両者の結果を比較することで、評価方法の改訂により有所見者やスクリーニングに用いた場合の受診勧奨者の割合にどの程度影響するかを検討した。対象は2016年に歯科健康調査に参加した岩手県大槌町の成人住民1,159名で、そのうちCPIの代表10歯のいずれかを有する者882名の結果を分析した。改訂法での評価では所見ありとみなされる者は本集団の69.3% に該当し、従来法で評価した場合(84.2%)と比べて有意に低かった。これは従来法で個人コード2(歯石あり)と判定される者の半数近く(47.1%)が歯肉出血スコア0 であったためであった。また、歯石があっても出血の認められない部位では分画による違いは認められなかった。本研究の結果から従来法において歯石付着所見のみ認められる者には歯肉出血がみられない者が多く含まれており、改訂法では有所見者とみなされないことが示された。
佐藤 俊郎, 大石 泰子, 阿部 晶子, 難波 眞記, 坂田 清美, 三浦 廣行, … & 岸 光男. (2019). 口腔衛生学会雑誌, 69(4), 198-203.