本研究で明らかになったこと
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健康調査・健康一般
東日本大震災から 1 年 岩手県からの報告: 被災者の健康に関する長期追跡研究を実施中.
東日本大震災における死者・行方不明者数などの被害状況、特に岩手県の被害状況を紹介し、その岩手県において被災状況が最も深刻な大槌町、陸前高田市、山田町を対象とした厚生労働省「東日本大震災被災者の健康状態等に関する調査」(主任研究者:林謙治/国立保健医療科学院)の概要(目的、調査項目)を紹介している。18歳以上の被災者に対して、問診票、診察、血液検査などの健康に関する長期追跡研究を開始しており、山田町での問診調査の暫定的な解析結果からは、心の健康の評価尺度であるK6得点が高くストレスを抱える者の割合が大きいこと、またK6得点およびPTSDの評価尺度となる震災の記憶が、住居の移動回数、経済状況と密接に関連していることが示された。
坂田清美. (2012). 公衆衛生, 76(3), 215-217.
Impact of the Great East Japan Earthquake and tsunami on health, medical care and public health systems in Iwate Prefecture, Japan, 2011.
災害の被害の様子と岩手県の被災者の健康への影響を報告している。岩手県では、津波により4659人の命が奪われ、1633人が行方不明になった。震災により電気、水道、ガスが遮断されたほか、通信機能が麻痺し、ガソリン不足が起こった。岩手県をはじめ全国各地の医療・公衆衛生チームが、さまざまな専門家を含め、主に避難所において多様な公衆衛生活動に取り組んだ。その結果、死者数の多さを考えると、大けがによる治療を必要とする患者は比較的少なかったものの、避難所では亜急性期・慢性期のケアに大きな医療ニーズがあり、治療や公衆衛生的支援、感染症対策、メンタルヘルスケアなどが求められていた。大規模災害の過去の経験を参照することにより、健康関連の課題に効果的に対応することができたが、複数の公衆衛生対策チーム間で情報を共有し、全体的な活動を調整する方法に関しては、依然として課題が残った。
Nohara, M. (2012). Western Pacific surveillance and response journal, 2(4), 24-30.
岩手医科大学採血チームによる三陸沿岸被災者のDダイマー測定結果.
大震災後の3月下旬から6月中旬にかけて、岩手県医科大学は主要被災地の避難所を巡回して採血検診を行った。その結果、血圧上昇者が多く、全体の6割に達し、高血圧内服治療者の方が健常者よりも高くなる傾向を認めた。脂質代謝に関しては,T-Cholが全体の約3割、TGが約4割で高値を示した。Dダイマー高値者は全体の25%であった。自宅避難者より被災所生活者に多く認められ、居住スペースなどの環境因子が作用するものと考えられた。Dダイマー上昇は高血圧、高脂血症と合併することが多く、これらを指標としてDVT予備軍を抽出することが被災地では必要と考えられた。
柏谷元, 赤坂博, 秋富慎司, 高橋智, 小林誠一郎. (2012). 血栓と循環, 20(1), 26-34.
Relationship of living conditions with dietary patterns among survivors of the great East Japan earthquake.
18歳以上の被災者10,466人に対してアンケート調査を行い、生活状況と食事パターンの関係を調べた。その結果、魚介類や豆や野菜等を多く摂取する健康志向の食事は高齢者と女性に多く、肉や卵の摂取は若者と男性の間で多かった。男女とも喫煙者、生活が困難な状況にある者で健康志向の食事が少なく、また男性では喫煙者と毎日飲酒する者において肉や卵の食事が多い傾向があった。健康志向の食事は被災者のより良い生活状況と関連が認められたが、肉や卵の摂取の多い食事パターンはより良い生活状況と関連はみられなかった。
Nishi, N., Yoshimura, E., Ishikawa-Takata, K., Tsuboyama-Kasaoka, N., Kubota, T., Miyachi, M., … & Ogawa, A. (2013). Journal of epidemiology, 23(5), 376-381.
東日本大震災被災者健康調査の質問票における身体活動関連項目の妥当性および再現性の検討.
「東日本大震災被災者の健康状態等に関する調査」の質問票の中で身体活動状況を評価する4つの質問項目(日常での身体活動、外出頻度、歩行時間、不活動時間)について妥当性及び再現性を検討した。対象者は岩手県釜石市の仮設住宅居住者74名であった。身体活動状況の質問票の妥当性を検討するため、3次元加速度計による身体活動量調査を2週間実施し、また、再現性検討のために2週間の期間を空け質問票への回答を依頼した。その結果、歩行時間に関する質問において、各選択肢(1時間以上、30分~1時間、30分未満)を選択した群間で、歩数に有意な差が認められた。また、活動に関する3つの質問項目(日常での身体活動、外出頻度、歩行時間)の合計得点と3次元加速度計により得られた変数との相関を検討したところ、歩数や中高強度身体活動量に有意な相関が認められ、妥当性が認められた。さらに身体活動質問票の回答から再現性の評価を行ったところ、いずれの項目においても中程度の再現性が認められた。
村上晴香, 吉村英一, 髙田和子, 長谷川祐子, 窪田哲也, 笠岡(坪山)宜代, … & 徳留信寛. (2013). 日本公衆衛生雑誌, 60(4), 222-230.
仮設住宅に居住する東日本大震災被災者における身体活動量の1年間の変化.
2011年10月から2012年11月の約1年間における仮説住宅居住者の身体活動量の変化を把握することを目的に、岩手県釜石市の仮設住宅居住者(39人)のうち、2011年10月の身体活動量調査に参加した31名を対象とし、縦断的解析を実施した。2011年10月と2012年11月の身体活動量調査のいずれも、3次元加速度計により健康調査日から2週間の身体活動量を評価した。その結果、集団としては身体活動量は増加傾向にあったが、全国の平均歩数や岩手県の平均歩数と比較すると値は低く、今後の身体活動量増大のための支援が必要である。
村上晴香, 吉村英一, 髙田和子, 西信雄, 笠岡(坪山)宜代, 横山由香里, … & 宮地元彦. (2014). 日本公衆衛生雑誌, 61(2), 86-92.
釜石市の仮設住宅に居住している東日本大震災被災者の食物摂取状況.
震災被災者の食物摂取状況を把握することを目的として、2011年10月に18歳以上の岩手県釜石市の仮設住宅居住者72名に対して、食事回数や8つの食品群の摂取回数について質問を行った。エネルギー、栄養素、群別食品の摂取状況を2009年国民健康・栄養調査と比較すると、本研究の対象者は、ビタミンC、野菜、果物の摂取量が少ないことが示唆された。
吉村英一, 髙田和子, 長谷川祐子, 村上晴香, 野末みほ, 猿倉薫子, … & 徳留信寛. (2014). 岩手公衆衛生学会誌, 25(2), 7-14.
東日本大震災岩手県沿岸被災地域における頭痛調査.
「岩手県における東日本大震災被災者の支援を目的とした大規模コホート研究」の一環として、同意が得られた18歳以上の住民にアンケート調査を行い、被災地における頭痛の発生状況と頭痛に関連する因子を検討した。アンケートは6,009名に対し行い、無回答であった51名を除く5,958名を対象とした。その結果、「頭痛あり群」は「なし群」と比較して年齢が低く、女性の率が高かった。精神的因子では「頭痛あり群」はストレス、精神的緊張、易疲労感、睡眠障害を伴う頻度が高く、震災関連因子では、震災ストレスに関する3項目が「頭痛あり群」で有意に高く、避難所住居経験、仮設住宅居住経験ともに「頭痛あり群」で頻度が高かった。
石橋靖宏, 工藤雅子, 米澤久司, 寺山靖夫, 横山由香里, 坂田清美, … & 小川彰. (2014). 日本頭痛学会誌, 41(1), 56-59.
Population‐based incidence of sudden cardiac and unexpected death before and after the 2011 earthquake and Tsunami in Iwate, Northeast Japan.
地震と津波が心臓突然死と予期せぬ死(SCUD)の発生率に及ぼす時間的影響を評価するため、岩手県のSCUDの発生率と臨床的特徴に対する影響を調べた。震災前8週間と震災後40週のSCUDを把握するため、SCUDに関連する医療記録と死亡診断書を調査した。その結果、災害後最初の4週間のSCUDの発生率は前年の発生率と比較すると2倍になっており、その後は以前のレベルに戻っていた。週ごとのSCUDの数は、地震の強度や頻度と関連が見られ、標準化発生率は女性、高齢者、津波被災地居住者、平日、夜間で増加していた。これらの結果から、震災の規模、ストレス、高齢化がSCUDの発生率の一時的な増加を引き起こす可能性を示している。
Niiyama, M., Tanaka, F., Nakajima, S., Itoh, T., Matsumoto, T., Kawakami, M., … & Nakamura, M. (2014). Journal of the American Heart Association, 3(3), e000798.
疾病や障害をもつ被災地住民の震災後の症状と医療資源利用の実態 (特集 東日本大震災と被災住民の保健医療・介護福祉への影響).
被災住民のうち、難病、アレルギー、がん、身体障害手帳、療育手帳を有するものを対象に震災後の症状や障害の変化と医療資源の利用実態を把握した。岩手県山田町、大槌町、釜石市下平田地区の住民に対して健診調査の協力を依頼し、同意した者のうち疾病や障害がある者に追加調査を実施した。地域で生活している難病患者、アレルギー患者、がん患者、身体障害者手帳所持者、療育手帳所持者の一部で、東日本大震災後に症状や障害が悪化したことが示された。難病患者、アレルギー患者の受診に最も影響を与えていたのは、かかりつけ医の被災であった。
横山由香里, 坂田清美, & 鈴木るり子. (2015). 厚生の指標, 62(3), 19-24.
東日本大震災により被災した自治体職員の被災半年後の語りに見られた身体的精神的健康に影響する苦悩を生じた状況.
東日本大震災により被災した自治体における職員の身体的精神的な健康に影響を与える苦悩を生じる状況を明らかにすることを目的とし、震災で甚大な津波被害を受けたA町職員30名に対し、半構成質問紙による面接調査を行った。調査内容は、被災後の業務で印象に残っている内容や出来事などである。語りから身体的精神的健康に関連している内容をカテゴリ化した。抽出されたカテゴリから、被災した自治体職員は、自身も被災者であり家族など親しい人々の死にも直面し、職務においては、津波による役所建物などの物的喪失や同僚の死による人的喪失が重なり、業務遂行の負担が大きく、身体的精神的健康に影響を与えていることが考えられた。震災後の早期から職員の健康面への継続的な支援が必要である。
岩本里織, 岡本玲子, 小出恵子, 西田真寿美, 生田由加利, 鈴木るり子, … & 村嶋幸代. (2015). 日本公衆衛生看護学会誌, 4(1), 21-31.
Relationships between social factors and physical activity among elderly survivors of the Great East Japan earthquake: a cross-sectional study.
被災高齢者の社会的要因と身体活動との関連を検討する。2011年9月から2012年2月までの健康調査に参加した65歳以上の男女4,316名を対象とし、身体活動を従属変数とし、労働状態、社会的ネットワーク、居住地を独立変数として多重ロジスティック回帰分析を行った。その結果、居住地(移住)と非就労状況、ソーシャルネットワークの欠如が身体活動量の低さと関連していた。居住地と社会的要因は、被災高齢者の身体活動レベルと関連しており、災害後の高齢者の身体活動の増加を促進するために社会的要因の改善の必要性が示唆された。
Yoshimura, E., Ishikawa-Takata, K., Murakami, H., Tsuboyama-Kasaoka, N., Tsubota-Utsugi, M., Miyachi, M., … & Nishi, N. (2016). BMC geriatrics, 16(1), 1-7.
Weight gain in survivors living in temporary housing in the tsunami-stricken area during the recovery phase following the Great East Japan earthquake and tsunami.
津波被災地の仮設住宅に住む人々とそうでない人々の体重変化において、中長期的な回復期に違いがあるかどうかを明らかにする。津波被災者(n=6,601、平均年齢=62.3歳)を対象に、震災後約7ヶ月(2011年)と震災後約18ヶ月(2012年)に健康診断を実施し、仮設住宅に住む人々と仮設住宅に住んでいない人々の体重変化を比較した。結果、ライフスタイル、心理社会的要因、心血管リスク要因を調整した後の分析では、仮設住宅に住む人々の体重が有意に増加していることが明らかになった。
Takahashi, S., Yonekura, Y., Sasaki, R., Yokoyama, Y., Tanno, K., Sakata, K., … & Yamamoto, T. (2016). PLoS One, 11(12), e0166817.
Association between relocation and changes in cardiometabolic risk factors: a longitudinal study in tsunami survivors of the 2011 Great East Japan Earthquake.
震災後の居住地の変化等の災害関連の精神的社会経済的問題の有無とアテローム性動脈硬化症の心血管危険因子の変化の関係を明らかにする。津波の被害が大きかった地域で、一般住民を対象とした健康診断に参加した6,528名を対象とした。震災後8ヵ月時点、18ヵ月時点の2回の調査のデータを居住地変化あり群となし群について比較分析した結果、壊滅的な津波被害後の住居移転は、被災者の体重増加とHDLCの減少に関連しており、この変化は、災害後の長期にわたる心理的苦痛と社会経済的問題に関連していたことが示唆された。
Takahashi, S., Nakamura, M., Yonekura, Y., Tanno, K., Sakata, K., Ogawa, A., & Kobayashi, S. (2016). BMJ open, 6(5), e011291.
東日本大震災による津波被災半年後に自治体職員が語った有事の業務と思い~ 遺体対応に焦点をあてて~.
東日本大震災で津波災害を受けた自治体の職員が、震災半年後に印象に残ったこととして自発的に語った遺体対応業務とそれに対する思いを質的記述的に解釈する。23名の自治体職員に対し、個別面接を行い、被災直後からの状況と印象に残ったことについて聴取した。その結果、避難所と物資の業務については、創意工夫や今後の展望などが具体的に語られたのに比べ、遺体対応については非常に断片的であり、話すことにためらいが見られた。遺体対応業務は通常業務とは全く異質なものであり、準備もないまま遂行した過酷なものであった、我々は有事に起こるこのような状況について理解し、今後に備える必要がある。
岡本玲子, 岩本里織, 西田真寿美, 小出恵子, 生田由加利, 田中美帆, … & 村嶋幸代. (2016). 日本公衆衛生看護学会誌, 5(1), 47-56.
Combined associations of physical activity and dietary intake with health status among survivors of the Great East Japan Earthquake.
本研究は、身体活動と食事の摂取量とを組み合わせて、被災者の健康状態との関連を調べることを目的としている。震災から3年後に行われた横断調査の6,668名の参加者データを使用し、身体活動と食事摂取量の複合的な関連性を評価するために、これら2つの変数に関する質問への回答を4つのグループに分類して分析を行った。その結果、良好な身体活動のみ、または良好な身体活動と食事摂取の組み合わせが、良好な健康自己評価および良好な精神的健康と関連していた。被災者の健康状態を改善するには、身体活動と食事摂取に関するさらなる介入が必要である。
Nozue, M., Nishi, N., Tsubota-Utsugi, M., Miyoshi, M., Yonekura, Y., Sakata, K., … & Ogawa, A. (2017). Asia Pacific journal of clinical nutrition, 26(3), 556-560.
Association between health risks and frailty in relation to the degree of housing damage among elderly survivors of the great East Japan earthquake.
本研究の目的は、a)障害のない被災高齢者の間で、フレイルに関連する様々なライフスタイルと心理社会的要因を性別に明らかにする、b)災害による住宅被害の程度による特性の違いを明らかにすることである。対象者は、障害またはフレイルのない65歳以上の高齢者とし、2011年のベースライン調査と、2012年から2015年の追跡調査の質問票でライフスタイル、心理社会的要因に関する回答を分析した。その結果、4年間以上の研究期間中に510人(22.6%)がフレイルになっており、フレイルの発生に関連する心理社会的要因は、家屋被害が大きかった群でより多く持続していた。男性では、家屋被害が大きかった者、仮設住宅に居住している者で、心理的ストレス、社会的ネットワークが貧弱なことがフレイルと関連していた。一方女性では、心理的ストレスは家屋被害がない、転居していないことと関連しており、また家屋被害が大きいことと転居、体重増加や糖尿病などの健康問題、ソーシャルネットワークが貧弱なことが、フレイルと強く関連していた。フレイルのリスクに関連するライフスタイルと心理社会的要因は、性別と住宅被害の程度によって異なっていることが明らかになった。
Tsubota-Utsugi, M., Yonekura, Y., Tanno, K., Nozue, M., Shimoda, H., Nishi, N., … & Kobayashi, S. (2018). BMC geriatrics, 18(1), 1-15.
Tsunami Damage Associated with a Decline in Respiratory Function among Victims of the Great East Japan Earthquake in Iwate Prefecture: The RIAS Study.
2011 年の東日本大震災およびそれに伴う津波による健康被害の評価は、震災後の日本社会における最も重要な課題のひとつである。しかし被災者の津波被害と呼吸機能の関連を調べた報告は限られている。我々は「津波被災は呼吸機能低下に関与する」という仮説を被災地において検証した。部分浸水群でFEV1の有意な減少がみられた。全浸水群でもFEV1の減少傾向がみられた。重回帰分析では、%VC、FEV1、%FEV1の変化量は、津波被災状況との間に有意な負の関連が認められた。津波を伴う大規模自然災害においては、定期的な呼吸機能検査を含む健康管理計画が必要であると考えられた。
Shiga, K., Tanno, K., Yonekura, Y., Lu, D., & Kyle Miyazaki, B. S. (2018). Emerg Med (Los Angel), 8(364), 2.
Changes in pulmonary function of residents in Sanriku Seacoast following the tsunami disaster from the Great East Japan Earthquake.
肺疾患への東日本大震災津波の影響を評価するために、2011年と2012年に津波被災地域の約10,000人の居住者を対象に呼吸機能検査を行い評価した。2011年と2012年のFVC%pred.とFEV1%pred.を比較したところ、ともに2011年よりも2012年の方が有意に高かった。この間に喫煙率が大幅に変化しており、喫煙をやめた者でともに大幅に増加していた。喫煙状態の変化は、FVC%pred.およびFEV1%pred.の増加の理由の1つである可能性があるが、災害からの回復における他の不確定要因が、呼吸機能の改善をもたらした可能性もある。
Nagashima, H., Fujimura, I., Nakamura, Y., Utsumi, Y., Yamauchi, K., Takikawa, Y., … & Ogawa, A. (2018). Respiratory investigation, 56(2), 184-188.
Social capital and dietary intakes following the 2011 Great East Japan earthquake and tsunami.
先行研究では、2011年の東日本大震災と津波の被災者に影響を与える健康リスクとして、食事摂取量の不足が確認されていたが、本研究では様々な社会的要因(例えば、生活条件や地域社会資源の認識)と被災者の食事摂取量との関連を調べた。震災から3年後の岩手県4市町村で6,724人の被災者を調査した。結果は、31.6%が食事摂取量の不足を報告していた。年齢(65歳未満)、生活条件の厳しさが男女ともに不十分な食事摂取量に影響しており、女性では地域社会資源の認識が低いことが影響していたことから、地域社会資源が被災地の女性の健康的な食事摂取を促進する役割を果たしていることを示唆していた。
Goryoda, S., Nishi, N., Shimoda, H., Yonekura, Y., Sakata, K., Kobayashi, S., … & Kawachi, I. (2019). Journal of epidemiology, JE20170117.
Increase in Body Weight Following Residential Displacement: 5-year Follow-up After the 2011 Great East Japan Earthquake and Tsunami.
震災後の移住は体重増加に影響があるという先行研究があるが、長期的な変化は把握できていない。そこで、震災後最大5年間の仮設住宅居住者とそれ以外の人々の体重変化を比較した。2011年から2015年まで、9,909名の住民コホートで縦断的追跡調査を実施し、性別で層別化し比較した。結果は、2011年調査では男女とも2グループ間で有意な差はなかったが、仮設住宅居住者グループはそれ以外居住グループと比較して、2012年以降大幅に体重が増加した。仮設住宅居住者は体重増加のリスクが高く、災害後のメタボリックシンドロームの潜在的な危険因子となる。
Takahashi, S., Yonekura, Y., Tanno, K., Shimoda, H., Sakata, K., Ogawa, A., & Kobayashi, S. (2020). Journal of epidemiology, 31(5), 328-334.
Effect of temporary housing on incidence of diabetes mellitus in survivors of a tsunami-stricken area in 2011 Japan disaster: a serial cross-sectional RIAS study.
2011年の東日本大震災から5年後、仮設住宅居住者と他のタイプの居住施設(非仮設住宅)居住者のDM(糖尿病)の発生率を比較した。災害の影響を受けた沿岸地域の7,491名の住民コホートで2011年から2015年まで縦断的追跡調査が実施され、仮設住宅居住者グループと非仮設住宅居住者グループのDMの新規発症のオッズ比を計算した。仮設住宅居住者グループの64歳以下の男性において有意に高いオッズ比を示した。女性では居住形態はDMと有意に関連していなかった。仮設住宅居住者は、糖尿病発症リスクが高まる可能性が示された。
Takahashi, S., Tanno, K., Yonekura, Y., Shimoda, H., Sasaki, R., Sakata, K., … & Kobayashi, S. (2020). Scientific reports, 10(1), 1-9.
Increased incidence of metabolic syndrome among older survivors relocated to temporary housing after the 2011 Great East Japan earthquake & tsunami.
2011年の東日本大震災の被災者におけるメタボリックシンドローム(MetS)の発生率を調査した。津波被災地の18歳以上の被検者が前向きコホート研究に参加した。既にMetSと診断されている参加者を除外した後、7,318人の4回の年次検査でのMetSの累積発生率を観察した。結果は、参加者全体の累積発生率は18.0%であった。プレハブの仮設住宅及び他のタイプの住宅に移転した高齢女性の間で、転居しなかった人と比較して有意に高かった。MetSの増加は男性、64歳以下では観察されず、プレハブの仮設住宅への移転は、高齢女性におけるMetSの発生率増加の危険因子となっていた。
Takahashi, S., Yonekura, Y., Tanno, K., Shimoda, H., Sakata, K., Ogawa, A., … & Kawachi, I. (2020). Metabolism open, 7, 100042.
東日本大震災被災者地域住民における発災3年半後の主観的健康感とその関連要因.
震災地域住民における災害3年半後の主観的健康感(SRH)をその関連要因について探索した。解析対象は山田町、大槌町、陸前高田市在住で2011年と2014年の調査に参加した5,946名であった。2014年SRH不良の割合は男性13.8%、女性15.2%であった。2014年のSRH不良に寄与した要因は男女ともに低身体活動、経済苦、治療中の疾病、精神的苦痛、睡眠障害であり、男性では食事回数の少なさ、社会的孤立、女性では無職が関連していた。被災地域住民の主観的健康感不良者は、心身の健康状態のみならず生活習慣や社会経済環境も不良であることが示唆された。
田鎖愛理, 米倉佑貴, 下田陽樹, 丹野公高, 坪田(宇津木), 佐々木亮平, … & 小川彰. (2020). 岩手公衆衛生学会誌, 31(2), 19-29.
Association between the prevalence of hypertension and dairy consumption by housing type among survivors of the Great East Japan Earthquake.
災害避難生活者における高血圧有病率と乳製品消費との関連を東日本大震災後の住宅タイプ別に調査した。2011年9月から2012年2月までに18歳以上の震災被害者9,569名を対象にベースライン調査を実施した。高血圧は、仮設住宅と非仮設住宅の参加者のそれぞれ43.8%と44.7%であった。毎日の乳製品消費による高血圧有病率は、住宅の種類によって異なっており、乳製品消費頻度が高いことは、地震や津波の被災者、特に仮設住宅に住む人々の高血圧の有病率の低下と関連していた。したがって、乳製品の摂取を伴う食事療法は、避難者の高血圧を予防するのに役立つ可能性がある。
Miyagawa, N., Tsuboyama-Kasaoka, N., Nishi, N., Tsubota-Utsugi, M., Shimoda, H., Sakata, K., … & Kobayashi, S. (2021). Journal of human hypertension, 1-9.
Five-year blood pressure trajectories of survivors of the tsunami following the Great East Japan Earthquake in Iwate.
大きな被害を受けた津波被災者の、震災直後と中長期的な血圧上昇については明らかになっていない。そこで、津波被災者を移転者(大きな被害)と非移転者(被害が少ない)に分け、震災後5年間のグループ間の血圧の変化を比較した。3,914名の住民の2010年から2015年のデータを評価したところ、津波被災者の収縮期血圧値は、震災後中長期的に減少しており、移転グループは非移転グループと比較して収縮期血圧値の低下が大きかった。
Takahashi, T., Tanaka, F., Shimoda, H., Tanno, K., Sakata, K., Takahashi, S., … & Nakamura, M. (2021). Hypertension research, 44(5), 581-590.
東日本大震災被災地域の高齢者における新規転倒発生要因の検討:RIAS Study.
大規模自然災害後の被災地では生活不活発病が問題とされ、それに伴う転倒予防の必要性が高まっている。本研究では被災高齢者の新規転倒要因を明らかにする。2011年度より岩手県沿岸部で実施された大規模コホート研究に参加した高齢者のうち、転倒や要介護認定、脳卒中・心疾患・悪性新生物の既往がなく、2011年から2016年までの調査に毎年参加した1,380人を対象とした。結果は、5年間の追跡期間中、参加者の35.5%が新規転倒を経験し、新規転倒に関連した要因は、男女ともに認知機能低下疑い、女性では不眠、脂質異常症の既往、過去喫煙、後期高齢女性では自宅半壊と心理的苦痛が要因となっていた。大規模自然災害後の転倒予防対策では、環境やメンタル面の変化にも注意する必要があることが示唆された。
久野純治, 坂田清美, 丹野高三, 坪田(宇津木)恵, 田鎖愛理, 下田陽樹, … & 小林誠一郎. 日本公衆衛生雑誌(in press).
Relationship between housing damage and serum cortisol among survivors of the 2011 tsunami disaster.
先行研究では、自然災害の被災者にコルチゾールの変化が起こることが示唆されているが、関係性は一貫していない。そのため、本研究では2011年の東日本大震災で住宅被害を経験した被災者の血清コルチゾールを調べた。岩手県の3市町に住む9,148人の被災者コホートから横断的にサンプルを抽出し、災害後5〜9か月の間のコルチゾールを測定した。コレチゾールは住宅非損傷グループと比較して大きな損傷または浸水を経験したグループで有意に低く、深刻な住宅被害は、津波の影響を受けた被災者のコルチゾールの低下に関連していた。
Takahashi, S., Tanno, K., Yonekura, Y., Shimoda, H., Tanaka, F., Sakata, K., … & Kawachi, I. (2021). Journal of Environmental Psychology, 101654.
Psychological distress in responders and nonresponders in a 5-year follow-up health survey: The RIAS Study.
岩手県での東日本大震災と津波災害の被災者に関する健康調査の参加者の5年間の追跡調査において、毎年実施している健診への受診状況に応じた心理社会的差異を調査した。2011年にベースラインで健康診断を受けた18歳以上の被災者10,203人のデータを2015年の健康診断の参加状況に応じて受診者と未受診者に分類して分析した。調査に参加しなかった最も一般的な理由は、他の健康診断や病院での検査を受診した、参加する時間がなかったであった。男性の未受診は軽度の心理的ストレスとのみ関連、女性では軽度及び重度の心理的ストレスと関連していた。追跡調査の健診未受診者は、受診者よりも心理的ストレスが高く、受診者・未受診者ともに継続的に見守ることが将来の健康状態の悪化を防ぐのに役立つ可能性がある。
Tsubota-Utsugi, M., Yonekura, Y., Suzuki, R., Sasaki, R., Tanno, K., Shimoda, H., … & Sakata, K. (2021). Journal of epidemiology, JE20200617.